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「ただいま」
「おー、おかえり!」
欠伸をしながら玄関を開けた拓夢を、何やらばたばたと慌ただしい様子で父親が出迎える。その挙動から、彼は察する。
――今日もかよ。
「今日のお客様はすごいぞ。VIP中のVIPだ、失礼のないようにな」
「VIPぅ?」
そんなこと知るかよ、と思いながらも彼には逆らえない拓夢は自室に戻り鞄をベッドの上に放り投げると、いつものように応接間へ向かう。
ずず、と襖をあけたそこには自分と同じくらいの年齢と思われる女性がいた。だが、ただの女性ではない。
時代錯誤と思ってしまうような、真っ赤な色彩の重々しい着物に身を包んだ彼女は、不安そうにこちらを見つめている。
「ど、ども」
「貴方が、拓夢様でしょうか? お父上の悟(さとる)様から伺っております。夢、願いを叶えていただけるとのことですよね? あ、私は橘美夜と申します。はじめまして」
三つ指をついて深々と頭を下げる彼女。彼は呆気にとられていたが、すぐに正気に戻った。
「橘って……まさかあの橘家?」
拓夢の問いに、彼女はこくりと頷く。これは確かにVIP中のVIPで間違いなかった。今まで彼が導いてきた霊は、あくまで一般人の霊であった。しかし、彼女は違う。
平安時代、このあたり一帯を治めていた橘氏、その娘。史実では敵に攻め込まれ滅びたとされていた。
「私は籠の鳥のように、父上と母上に大事に育てられていました。そのことについての不満はなかったのですが……」
「つまり?」
彼女は顔を赤らめながら言った。
「……私に、女性らしい体験をさせていただけないでしょうか?」
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