彼、少々難有りにつき。

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「キスのが良かった?」 顎先をくいっと持ち上げると、圭司くんは細めた目にからかいを湛えて、私の顔を覗き込んだ。 やっぱり、さっきの“いいもん”…… 私が一瞬何を思ったのか、バレてる。 「べっ、別に、そんなこと」 「色気より食い気、だもんな」 「なによぅ」 「なんだよ。違うのかよ」 「違わないけど」 息もつかせずそんな会話を交わして、やっぱり最後にはいつも剥れる私。 「バーカ」 すると決まって、圭司くんが優しい声でそう言って、私の額を軽く弾く。 この一連の流れとなりつつあるやりとりが、たまらなく好きだ。 「さっさと食えっつーの」 「う、うん!いただきます」 急かされてやっと、私はケーキに一思いにフォークを突き刺した。
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