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某日。
我輩は退屈していた。
とかく退屈であった。
分身と殴りあっても、いたずらに消耗するだけで、退屈しのぎにはならぬ。
かといって人間など襲ってもつまらん。
「で…なんで俺がんな話をされなきゃなんねぇんだよ…」
「何を言う、紅茶を淹れる代償に、話を聞くと言ったではないか」
「言いはしたがよ…」
この品性の欠片も持ち合わせておらぬ外見と、外見通りの中身をもつ古い友人―しょうけらと茶を飲む事にしたのである。
しょうけらは諸事情あって極東の島国に行った折に知り合った、極道妖怪としか言い様の無い男である。
「御老体が退屈してんのは、嫌ってほどわかった。で、俺にどうしろってんだ」
「面白い事をしろ」
「…友達居ねぇだろ、アンタ」
そんな事はない。
我輩はかなり社交的な…社交的な…ふむ
「いいから早くしろ、極道者」
「え?図星?図星なのか?」
「早くしろと言っている」
「…わーったよ。ただ、俺は芸がねぇ。だからちょいと面白い話をしよう」
「期待しておるぞ」
「おう、任せろ―昔な、俺がまだ一人でフラフラしてた時だ。影法師って野郎と喧嘩になってな。野郎、アッチの影からコッチの影へ飛び回るし、分身するしで鬱陶しいったら無かったんだ。
んで俺は言ってやったね。
忍者みたいに飛び回って、分身しやがって。てめえはいったい何忍者!?ってよ!!」
「…すまぬ、期待した我輩が悪かった。許してほしい」
「それはどんな反応だよ!?」
「もう喋るな。傷をえぐる必要はない…」
「お、おい、もう一度、もう一度だ!!」
「む…」
「俺がまだ若い頃に見た喧嘩だ。ある刀屋に侍がいちゃもんつけてやがってよ。
おい、店主!!これは一体どういう事だ!?
先日買った刀、何も斬れぬではないか!!
店主は困った顔で答えた。
へぇ…ですが手前共に言われましても。
侍は言った。
貴様、口答えをする気か!?
場合によっては切り捨てるぞ!!
と。
店主は困った顔でさらに答えた。
はぁ…いや、ですがね?お侍様。
うちは刀は刀でも竹光屋でして…。
どうやってお切りになるのでしょうか…?
ってな」
「…すまぬ、石城故、別に涼しくしてもらわずともよい…」
この友人に、冗談は二度と言わすまいと誓った日であった…。
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