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―――――――
「………ハァッ…………!ハァッ…………!」
…………自分はいま、逃げていた。
「奴はどこだ!」
「探せ!」
「………遠くには行ってないはずだ。あまり大声を出すと気付かれるぞ」
「ハァッ…………!ゲホッ。ゼハッ、ううぅ………」
遠くから奴らの声が聞こえてくる。見つかればただでは済むまい。
命からがら、満身創痍。おぼつかない足取りで、走るというよりこけているように歩いて逃げていた。
「………ぐっ」
右手のひらには、小さな矢じり。
奴らはこれが欲しくて自分を追っている。ただそれだけわかっている。
それ、だけ。
これが惜しくて手放さないんじゃあない。奴らにだけは渡したくないのだ………否、渡しては『いけない』。
奴らの目的など知ったことではないがなんとなく、自然にわかる。
倫理的に、人を殺すことは悪いことと潜在的にわかっているように、絶対に奴らにこの『矢じり』を渡してはいけないと良心が叫び散らしている。
渡したら、大変なことになる。
その漠然とした確信が、よけいに不安を煽る。
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