序章

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そもそも、なぜ自分はこんな目に遇っているのだろう? こんな矢じり一つ、踏み砕いて道路の脇のドブにでも捨ててしまえばいい。 だが、先ほど言った『良心』がそれだけはしてはいけない。 と警鐘を鳴らしてくる。 結局自分は夜が更けることを願いながら、走り続けるしか無いのだ。 ………そう薄々感じ始めたとき、目についた。 家がある。自分の家ではない、見知らぬ他人の家だ。 よくある一戸建てで二階建てのその家は『ご近所さんの家』とか『友達の家』みたいな見知らぬようで見知った感じのする家だった。ガレージには白のアルファードが見える。 …………ふと、右手の矢じりに意識がいった。 右手を顔の前に持っていき、手を開く。 暗闇の中だが、すでに目が慣れており矢じりのフォルムはしっかりと見てとれる。 …………いたずら心のようなものか。 何もしていない自分が巻き込まれているのに、このなんの変てつも無い家が無事なんて許せない。そんな理不尽な怒りが胸をよぎった。 この家の住民を巻き込んでやりたい。迷惑をかけてやりたい。苦労させてやりたくて仕方がない。 その衝動が押さえきれず、右手を振りかぶり、思い切り矢じりをぶん投げてやった。 矢じりは家のベランダへ飛び込んだ。特に音がしなかったが、干し物に当たったのだろうか。 いや、そんなことはこの際どうでもいい。 胸のすくような気分がした。溜飲が下がるとは正にこのこと。 ざまあみろ追っ手め。 ざまあみろ家の住民め。 ニヤニヤと笑いながらその場を悠々と歩きながら後にした。
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