旅立ちの日

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青い海の真ん中に、ただ一つの巨大な大陸が浮かぶ惑星があった。 ヴェニスラ、この世界の人々はこの世界の事をそう呼ぶ。 この世界と同じ名前の大陸にいつから人が住みついたのかは誰もしらない。 しかし、人々が文明を持つよりはるか昔からその魔境は存在した。 ゴールドスプリング、畏怖と憧れを込めて呼ばれるその深い森は、有史以来どの国の支配下に置かれる事も無くこの世界の真中に存在しつづけていた。 人間がその土地に入らない理由は簡単だ。入ったら二度と出てこられないからだ。 あるとき、命知らずの男が森の中に入り、驚くべき事に森の奥にあるという泉から黄金色の物体を持ち帰った。 後に金と呼ばれるようになるそれは、様々な素材に加工する事ができ、また機械を動かす燃料にもなることがわかった。 さらに驚くべき事に、男は森の中で不思議な力を身につけて帰って来たのだ。 彼は数百年にも及んだ戦争を平定し、英雄と呼ばれるようになった。 男の名は英雄王アトラス、我らがヴェルナール王国初代国王だ。 華やかな金の装飾がされた童話の本を閉じ、少年は本を脇に挟むと立ちあがった。 「ゴールドイーターはやっぱりヒーローなんだ!」 目を輝かせる金髪の背の低い少年の名前は、ライサンダ―・マクスウェル、年は16歳にもなろうか、先日中等学校を卒業したばかりの男の子だ。 こぎれいな白いシャツに、茶色のパンツ、それをしわだらけにしてあちこち汚している。 「こら!ライ!そんな本ばっかり読んでないで勉強しなさい!」 いつの間にか背後に立っていたふくよかな女性が、彼をしかりつけた。 「ごめんなさい、ネルおばさん。」 あまり悪びれた態度も見せず、少年は本を床に置くと開かれた木のドアから外へと駆けだしていった。 ため息をついたおばさんは、ライが残して行った本を拾い上げた。 《創世記の英雄王達》 彼女は腰から抜いた細い杖でその本の背表紙を軽く叩いた。 すると、本に刻まれた金字が光り、ふわりと本が浮き上がったかと思うと、それは壁際の本棚に勝手に収まった。 魔法のようなこの技は、金にためられた魔力によって可能となっている。 杖を通して、人間の体に流れる微弱なオーラを強化し流し込む事によって金に込められた魔法が発動するのだ。 このような技術は、この世界のいたるところで普通に行われている。 つまり、金が無ければ人々は便利に生活を送る事が出来ないのだ。
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