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「めえさん……オレを食いにきたのかい?」
ゴン太が小首をかしげる。
デン助は、あたりに残っている雪の量を確認するように、
左右を見回してから先を続けた。
「この時分ともなりゃあ、そろそろ、めえさんがたオオカミが腹をすかせて騒ぎ出す頃だ」
ゴン太がハッとしたように、自分のおなかを前足で隠した。
冬の終わり、動きの鈍かった草食動物たちが体力を取り戻し始め、
オオカミたちから逃げきれることが多くなっていた。
もっともゴン太は、獲物が十分にとれる冬の間でさえ、空腹になる日があった。
群れで囲い込むことに成功した獲物を、自ら道を譲るようにしてとり逃がしてしまうために、
罰として巣穴の洞窟に幽閉されることがあるのだ。
幽閉されている間は、みんなの食べ残しの骨をしゃぶらせてもらえればいい方で、
基本的には飯抜きだった。
おなかがすくのはとても苦しく、洞窟の中で涙を流しながらのたうちまわった日々も、
一日や二日ではなかった。
だが、それよりつらいのは、群れから仲間はずれにされることだった。
声をかけても無視されたり、からかわれたり、ときには、よってたかって噛みつかれたり……。
ゴン太は、一定時間、別の楽しいことを考えてやり過ごすと、
空腹が気にならなくなることを発見していた。
久々にありつけたときのご飯が、普段の何倍も何十倍も、
涙がこぼれるくらいおいしく感じることも――けれど、
いじめられる痛みは、胸の奥にこびりついたサビのように、取り除くことが難しかった。
空腹ならば、「おなかすいたなあ」と思い始めない限り、しばらくはおとなしくしていてくれる。
幽閉処分やいじめにさらされるたび、こんなことはもう絶対イヤだと思う。
次こそは頑張ろう、役に立ってみせようと決意する。
けれど、群れに包囲され、絶体絶命におちいった動物たちが見せる、
あの必死な形相を目の当たりにすると、思わず道を譲らずにはいられなくなるのだった。
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