始動! プランD!?

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 そこまで語ったところで、黙って聞いていたデン助がつぶやくように言った。 「できねえよ……」 「?」 「デン助さん?」  ゴン太がデン助の暗い顔を不思議そうに覗き込む。 「そいつはできねえ」  今度はキッパリと言い放ったデン助に、ゴン太がすがりつくように頼み込んだ。 「デン助さんお願い! 協力してあげようよ。 ポッポ屋さんがこんな風になっちゃったのは、ボクのせいかもしれないし――」 「できねえつってんだよ!」  激しい怒鳴り声に体を震わせて驚くゴン太。 おびえきったまなざしでデン助を見ると、デン助は苦しそうに顔をゆがめ、目をつぶっていた。 「……デ、デン助さん?」  デン助が唇を震わせながら、しぼり出すようにポツリとつぶやいた。 「……泳げねえんだよ」  一瞬、森からすべてのイキモノが消えてしまったかのようにあたりがシーンと静まりかえる。 時間が止まったようだった。 ゴン太はドキッとしたまま、息を吸うのも苦しくなって、その場から一ミリも動けずにいた。 ポッポ屋は、あいかわらずどこをみているのかわからない目でじっと正面を見据えていた。  デン助は、場の空気を変えようと明るい口調で先を続けた。 「ヘン! オタマジャクシの頃はよかったぜ!  自慢じゃねえが、仲間うちでも泳ぐのは早かった方さ!」  記憶のないポッポ屋が、まるで自分の過去を振り返るようにしてその黒い目を閉じた。 「ところがよ、両手両足がはえ出して、尻尾が短くなってきた途端だい、 どうにもこうにも水中でバランスが取れなくなっちまった」  ゴン太の目には、もう涙がにじんでいた。 「ほら、見てくれよ。こんなに立派な水かきだってあるんだぜ?」  デン助が水かきを、ぼんやりとした陽ざしに透かしてみせる。 「ところがどっこい、かけばかくほどどんどん沈んでいきやがる!  気がつきゃ仲間に助けられ、泥の岸辺で青空をおがんでた」 「デン助さん……」  ゴン太の目からとめどもなく、大粒の涙がこぼれ落ちてゆく。 「それからは、この泥んこだけが終の住みかよ」  デン助は、涙こそ見せなかったものの、一度だけ鼻水をすすって、  照れくさそうにポリポリと鼻の頭をかいた。
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