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「デン助さん……ボ、ボク……ごめんなさい」
「なんでゴンの字が謝ってんだよ」
「だってボク……」
「確かにオレは泳げねえ。当時は悩みに悩んだもんだが、こいつばかりはどうしようもねえ。
けどよ、オレはカエル相撲の世界じゃあ本当に名が売れてるんだぜ?」
デン助がさっぱりとした口調で言う。
「それに前にも言ったが、オレは口喧嘩ではいっぺんも負けたことはねえ。
もしも口喧嘩の大会がありゃあ、必ず天下とってみせるぜ!」
ようやく、ゴン太の顔に少しだけ笑顔が戻る。
「まあ、わら一筋の自負ってヤツかもしれねえがな」
デン助がまた鼻の頭をポリポリとかく。
「さあ、ポッポ屋。これでわかったろう?
めえさんには悪いが、オレにはできねえ相談ってこった」
ずっと目を閉じていたポッポ屋が目を開く。
やはり、どこを見ているのかわからない目だった。
そのポッポ屋が、ひとつ大きな息をついて言った。
「デン助どの、わたくしの勘が間違っていたら申し訳ないのですが……
ひょっとすると、今のはつらい話だったのでしょうか?」
ゴン太とデン助は思いっきりずっこけた。
「ポ?」
ポッポ屋がキョトンとした顔で首をかしげる。
デン助はそれを見て、ほとほとあきれ、しまいにはなぜか笑いたくなった。
「ったく、頭がいいのか悪いのかわからねえ野郎だな!」
ゴン太も笑った。
しかし、ポッポ屋は笑うどころから、
どこを見つめているかわからないその目を珍しくキリッとさせ、デン助に向けた。
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