序章 狩る者たち

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「アネゴ、ゴン太のヤツ、ひとりで行かせて大丈夫ですかい。アイツは筋金入りの方向音痴ですぜ?」 「あたいが本気であの子なんぞに期待してると思うのかい、ハヤテ?」  ハヤテと呼ばれたオオカミが、俄然興味をかきたてられたように身を乗り出し、フブキの隣に並んだ。 「と、おっしゃいやすと?」 「あの子がいたら、また作戦をだいなしにされかねじゃないか」 「確かに、この間もそれで痛い目にあいやしたからね。あっしらまでお咎め食らっちまって……」  ハヤテが細い目をさらに細める。 「だから、あの子には見当違いなところへ行ってもらわなきゃ困るんだよ」 「?」 「あの子がいないだけで、あたいらはチームの力を十二分に発揮できる。 少なくとも、この間のような失敗はしなくて済むだろう?」 「それもそうでやすね」 「ケケケ」と笑って頷くハヤテをフブキがチラッと見やった。 「万が一、この作戦にしくじったときには、敵前逃亡前科百犯のあの子が、 ひとり勝手に飛び出して、群れの統率を乱したせいにもできる」 「な、なるほど!」  ハヤテがいっそう顔を輝かす。 「あの子が本当に獲物をせき止められるっていうなら、あたいはそれでも構わないんだけどね」 「へ?」  不敵な笑みを浮かべるフブキを見て、また曇り顔になるハヤテ。 「考えてごらん。あたいらは、驚いて舞い戻ってくる獲物をしとめるだけでいい。 それだけでチームの格はあがって、分け前もたくさんもらえるんだよ?」 「それはそうでやすが――」 「そう、そんなことはありえない。けれど、これでどっちに転んでも、 あたいらに損はないじゃないか」 フブキが舌なめずりして妖しく微笑む。 瞬間、ハヤテは恐ろしく美しいものを見た気がして、ゾクゾクするような興奮をおぼえた。 「さ、さすがはフブキのアネゴだ! 考えることがあっしらとは違いまさあ!」 「世辞はいいから、ここで獲物を見失ったら元も子もないよ!」 「へへ、そうでござんした!」 「さあ、行くよッ!」  まるで一匹のイキモノのごとく、きれいにまとまっていたオオカミの一群が、 フブキの掛け声でいっせいに横に広がり、必死に逃げ惑うはぐれ鹿を包み込みにかかった。
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