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ゴン太はモッサレラの森の中を突き進んでいた。
曲がりくねった太い根っこがゆく手をはばみ、トゲのついたツタが体にからみついてくる。
なりふりかまわず、一心不乱に走り続けていたゴン太が森が少し開けてきたところで悲鳴をあげた。
「ウッ!」
転がるようにして立ち止まり、前足の裏側を覗き込む。
ゴン太の素早い動きを支えている太い指と鋭い爪の間から血がにじんでいた。
見ると、爪の奥に硬く尖った雪の結晶が食い込んでいる。
森には、表面が凍ったようにザクザクした雪がまだたくさん残っていた。
「イテテテ~ッ……まったくもう!」
持って生まれた自分の太い指と鋭い爪に恨みがましい目を向けながら、顎と舌で雪の結晶を取り除く。
そこでふと、おかしなことに気がついた。
「あれ?」
森をグルッと周り込んで獲物の正面へと出るはずが、今見えているのは見たこともない沼地だった。
クンクンとにおいを嗅ぐまでもなく、あたり一帯に強烈な異臭が漂っている。
「うう、すごいにおい! 変なところに出ちゃったなあ……」
勢い込んで走ってきたものの、まったく見当違いの方向へきてしまったらしいゴン太。
鼻を押さえつつ、キョロキョロ見渡してみても、もはや戻る道すらわからない。
異臭のせいか、鼻の機能も麻痺しているようだった。
「せっかくアネさんに認めてもらえるチャンスだったのに。
こんなんじゃ、またハヤテたちにいじめられちゃう……」
とぼとぼと沼の周囲を歩いてみる。
見覚えのあるところには出そうもなかった。
にわかに心細くなる。
「お~い、アネさ~ん! みんな~!」
いくら呼んでも返事はない。
沼の向こうに浮かぶ、うすぼんやりとした太陽だけがゴン太を物憂げに照らしていた。
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