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 朝から体の調子が良いと言う音々に初めての留守番を頼み、スーパーで当面の食材をまとめ買いした帰り道、偶然前を通りかかったアクセサリーショップでの事だった。  シロの住んでいるアパート近辺は空き地や背の低い建物ばかりが並び、ローカルな雰囲気の住宅地なので店なんてほとんど存在しないのだが、そこから西へ十分も歩けば景色は一変する。  いかにもシロと同年代の女の子が好みそうな小洒落た服屋やら小物屋やらがいくつか並ぶ通りがある。人通りも自宅近辺と比べてそれなりに増え、そこからさらにもう少し歩けば安さが売りの大きなスーパーがある。一人暮らし男子のシロとしては後者の方がありがたい存在であり、前者には興味が全くと言っていいほど無いのだが、位置関係的に最短ルートを行くならどうしたって通ることになる道だ。  居心地があまりよくないその通りを普段と同じく早足で通り抜けようとしたのだが、その日は並んでいる店が視界に入ってきたとき、ふとある考えが浮かんでシロは足を止めたのだ。  ――音々って、こういうの似合いそうだよな。  拾ってからもうかれこれ四日になるだろうか。体が相当に弱いのか体調の崩し方が酷いのか、一向に熱が下がる気配のない臨時同居人とでも言うべき自称死神の姿が脳裏に浮かぶ。  艶やかな長い黒髪に、透き通るような白い肌。ぱっちりした目や柔らかそうな頬といい、華奢で小柄な体格といい、いかにも可愛いものが似合う女の子といった外見なのだが、そういえば彼女がこういう小物を身に付けているところなんて見たことが無いな、と店先を眺めながら思った。  まあ当然なのかもしれない。なにせ彼女は現在熱で寝込んでいて療養中なわけで、ベッドから出る事自体ほとんどない。別に見る相手がいないのにこんな可愛らしい小物を身に付けたところで全くの無意味だ。 「とは思うんだけど……ちょっともったいないよなあ」  スーパーのビニール袋という、少々場違い感が拭えないものを手に提げながらいくつかの店先を眺めて呟く。  姿を思い浮かべたついでに、そういえば最近退屈そうにしていることが多いんだよなということも思い出す。やっぱり熱で身動きが取れず、ベッドからあまり出られないというのは退屈なのだろう。そのせいで最近は彼女の表情も曇りがちなのだが、ここで何かプレゼントでも買って帰ればもしかすると喜んでくれるんじゃないだろうか。
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