「貪欲」

2/2
前へ
/8ページ
次へ
彼女と初めて会ったとき、 第一声は「おじさん、おなかすいた」だった。 お定まりの文句がこんなにしっくりとはまるものかと、 苦笑してしまったのを覚えている。 「おじさん?」 私がぼーっとしていると少女がすっと腕をまわしてきた。 「なんか食べたいね」 なんのてらいも恥じらいもない信じきっているまなざし。 奥二重の黒目がちの目がくりくりと動き、 利発そうに輝いている。 「なにがいい?」 「寿司とピザとケーキと焼肉!」 「……それはかまわないが、全部食べれるのか」 「食べれなくても食べたいものは全部言わないと気が済まないの」 「じゃあ、全部食べれるチェーン店だな」 「わお!」 少女が嬉しそうに笑うと、本当にそこに小さな太陽が咲いたように 胸の中があったかくなった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加