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カラン…グラスの中で氷が溶ける音がした 私を包んでいた羊水が溢れ出す 私が流れ出ていく 意識を手放し掛けている私には涼太が壊したガラスの砕ける音が、あの日の氷の音に重なった ぼやけて彼を映す私の目を涼太は抜き取った 離婚する夫婦が互いの指輪をそっと外すように、慎重なそれは、まるで儀式だと思った 涼太は自らの涙で私の瞳を洗った すると、私が大好きだった緑の大きな瞳が、彼の涙と混ざったホルマリンの中に落ちて溶けた 涼太の物になった私の瞳は上半身をガラスの海へ、下半身をあの羊水の中へ浸した状態で仰向けのまま、瞳の無くなった穴を晒して倒れていた私を映し出した 堕胎された子供のようだと思った 涼太は私の抜け殻にそっと一つキスを落として、微笑んだ 呼吸など、ずっと昔に忘れた筈の体が息をのんだように見えた それくらい、涼太は美しい少年だった
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