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ふと、パラソルではない影が落ちた 驚いて、少し目を見開く 本に栞をして、ゆっくりと顔を上げると、笑顔の男が立っていた 『はじめまして、小松梨花さん 驚かせたかったわけじゃないのですが、読書に夢中のようでしたので、気付いて頂けるのをお待ちしていたのですよ』 意味の分からない男、それがこの男に対する第一印象だった 何故、私を知っているのか不思議だったが、不気味に思う気持ちが勝り、足早に席を立つことにすると、男は能面のような顔でニコリと笑うと私の前に立ちはだかった 「すみませんが、そこを退いて頂けます?」 私が口を開くと、彼はにこやかに私が座っていた席にもう一度座るようエスコートした 流れるような動作に、私は文句を言うチャンスも言葉も失ってしまった 七月の日差しが降り注ぐオープンテラスで男は汗一つ流すことなく、ホットのブラックコーヒーを飲みながら、相も変わらず能面のような顔で私を眺めて笑っている 私は居心地の悪さに耐えかねて、用件を聞くことにした 「…で、何なんですか」 ぶっきらぼうな私の問いに男は変わらない笑顔で答えた 『会話、してくださるんですね、嬉しい限りです 申し遅れました、私は神田雅と申します』 イライラする この男を見ていると今まで感じたことのない感覚になる これは憎悪だ 今まで恐怖で膝が震える事は何度かあった だけど足元からイライラが這い上がってくるようなこの感覚は初めてだ 憎悪は足首から這い上がり、脹ら脛を痙攣させる だけど、何故か話を聞いてしまう 聞きたいと思わされてしまうのだ 幼い頃、危険だから遊び場にしちゃいけないと言われた廃墟に、入ってみたかった気持ちに似ている そこまで思考を巡らせた所で神田は言った
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