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≪大丈夫、難しいことじゃない。―――もう既に、終わったから。≫
「え…?」
声はくすくすと軽やかに笑って…言った。
≪これは君の旅に描かれない君の記憶の物語だ。
―――君がこの世界で日々を…生きた証だ。≫
「俺が…生きた証?」
そう、と声がうなずいた。
―――俺に関することらしいことは分かったが詳しくは分からないまま。
「…よく、分からないんだが。」
む、とした声で投げかけると、声はおかしそうに笑った。
≪いいよ、分からなくて。ここで何が起ころうと、未来の君には何ら不便はない。この世界の君に…いや、君たちに関する記録のようなものだから。
―――ほら、見てごらん≫
声が囁くと、足元の海が変化した。
―――そこに映っていたのは、俺と、フィルと、オニキスだ。
「…これは、あの時の?」
それはまだ記憶に新しい過去だ。…記憶?
≪おや、何か分かったようだね?≫
「…何となくは。―――これから俺の知らないところで、俺が忘れたい過去がさらされるかもしれない、というぐらいには理解した。」
むー、と更に不機嫌そうに眉間にしわを寄せると声が噴き出した。
≪ははは!大丈夫、過去だからね!人の噂も七十五日と言うだろう?≫
声は、ひとしきり笑ってから、言った。
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