とある賢者の特別な日

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「――――くあぁ…」 メイフィル=グランデンの朝はとても遅い。日によって違いはあるが、基本的に太陽が昇りきった後である。 「―――あ、フィル、おはよう。」 「…おーう。」 顔を洗いに洗面所へ向かう彼に声をかけたのは、彼の召喚した勇者・ハジメ。 勇者である彼の仕事には、メイフィルの世話も含まれていると言っても過言ではない。 ―――その証拠に、彼は今まさに起床したメイフィルの体調と気分の確認、朝食への誘いを行うためにこの部屋を訪れたのである。 「―――朝飯、出来てるぞ?」 「…んー…」 バシャバシャと音を立てつつ洗顔をしながらメイフィルはぼんやりと答えた。 気配は静かに遠ざかる。きっと、朝食の準備をするために部屋に戻ったのだろう。 「…ん…」 キュ、と水道の蛇口を閉め、傍らに置いてある(メイフィルが起きる前にハジメにより配置された)タオルで顔をごしごしと拭う。 そして、顔を上げた時…目の前に鏡の中の自分と視線が絡む。 「――――…」 鏡の中の人物は、群青色の髪、それと合わせるような茶褐色の瞳を持っている。 だが、どこか鏡の前の人物とは異なるように見えている。どこが、とは言えない。 強いて言うならば、雰囲気、である。
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