第1章 柾木譲司編1

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 彼女との出会いはよく覚えていない。  俺はM大学経済学部3年でテニスサークルに所属していた。そして彼女こと田辺紫(たなべ・ゆかり)は同じ大学の文学部1年でテニスサークルの新入部員だった。  テニスサークルの部員数は学内一だったし、特に譲司目当ての女子部員の入部は多かった。多くの女子部員に混じって目立たない、紫の存在に気づいたのは5月に入ってからだと思う。  俺の周りにつきまとう女子。遠くから眺める女子。挨拶すると自然に仲良くなれる女子。少なくとも譲司に対して女子は皆好意的だった。  そんななか紫だけはいつも俺から離れた所にいた。目を向けない。近づかない。挨拶すら許さない距離感。  俺からなんどか近づこうとこころみたが、そのたびにさりげなく避けられた。  人見知り、男嫌い。そんな理由で避けられるなら納得はできた。  しかし遠くから観察する限り、紫は他のサークル仲間とは男女とわずそれなりに仲良くしていた。特別友達も作らず、仲の悪い相手もいない。  俺には挨拶すらしないのに、他の人間だと、楽しげに笑顔を浮かべて話していた。
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