第一章

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 マーク・ウォシップは高原に立っていた。その大地は荒れて、周りには何もない。建物はもとより、人もおらず、草木の一本も生えていなかった。上を見やれば空は陰り、遠くに見える山は岩肌がむき出しで、いわゆるはげ山というやつだ。何とも混沌とした場所であるが、彼はこの光景に見覚えがあった。 ――ルーイン教典第137章『怒りの日(the Day of Wrath)』の最後の場面。唯一神ルーインの怒りが、人類に降り注いだあとの世界だ。  マークはひらめいた瞬間、目の前の場面を心の中で暗唱した。彼ほど熱心な信者になれば、この程度は朝飯前だ。この道に入ってもう二十年近い。幼い頃から読み聞かされた神の教えが、もう今ではすっかりからだに染みついているのだ。  だがそれにしても、何もない。彼はただ、漠然とそう思った。確かに、大昔には大戦争があったと記されているけれど、それほどまでに人は愚かであったのか。 『あなたはなぜそこにいるのですか?』  突然声が響いた。女の声だ。マークははっとして後ろを振り向いたが、誰もいなかった。 『あなたはなぜそこにいるのですか?』
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