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同じ声が繰り返す。マークは何が何だか解らなくなった。だが、反応しないのも失礼な気がしたので、とりあえず返事をしてみた。
「なぜと言われても……そう言えば、なぜここにいるんだろう」
言われてから初めて気が付いた。彼の予想が正しければ、ここは教典の中の世界、それも遠い古代だ。マークは首をかしげた。
『なるほど、無自覚ですか。良いでしょう。では説明しますが、その前にひとつだけ。ここがどこかは理解できますか?』
「第二大陸の中央に位置する、『怒りの眼』でしょう? 実際には無国籍だから、誰も入れないはずだけど」
『その通りです。熱心ですね。しかしここは紛れもなく怒りの眼です』
声の主と会話が繋がっている。どうやら声を出せば通じるようだ。マークは思った。
「謎が多いな。それにしても俺を熱心と言うなら、あなたはルーイン教に関する何かか?」
『今は答えられません』
それまでと、声の調子が明らかに違った。これ以上踏み込むべきではないと、意図しているようでもあった。
「そうかい」マークは一歩退いた。「じゃあ、俺が今入れるはずのない怒りの眼にいる理由を説明してくれ」
『あなたに変化の時が訪れたからです』
声の主は即答した。
「は?」
『マーク、あなたは最近何か特別なものに出会ったはずです。そうでしょう?』
「そんなことは無いと思うが――」
『ならば後に気付くことになるでしょう。あなたは既に、出会っています』
マークが言い終わるまえに、女の声は言い切った。
マークはすでに混乱していた。先ほどからこの声に振り回され続けている。
――特別な出会いだと? そんなものはまったくない!
思えば彼には、ここしばらく新鮮な出会いなど何もなかった。強いて言うなら、彼のもとへ訪れた酔っぱらい男性や未亡人、ロイア系の一団くらいだが、この類いは彼の職業上、嫌でも出くわす存在だ。マークは思わず声を荒げた。
「おい、あんた。さっきから聞いてみれば随分と偉そうな物言いじゃないか。言葉遣いは丁寧でも、それはあまりいただけないな。自分のことは『明かせない』とぼかすのに、俺のことには詳しい。そのうえ特別な何かとか言われても、こっちにはさっぱりだ!」
女の声は依然冷静だった。その声色にはどこか諦めが混じっている。
『まだ解りませんか。もう時間もないので一言で言います。「あなたの運命」です。次こそは気付いてくださいね』
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