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「また、何を……」
ずきん。マークが再び言い返そうとしたとき、頭に激痛が走った。あまりのひどさに、視界が歪む。彼は頭を抱えながらその場に崩れ込んだ。
――まったく、なにがなんなんだよ。
マークはそのまま意識を失った。
目が覚めると、いつもの天井が見えた。その、白く塗装された漆喰の天井は、無表情にマークを見下ろしていた。彼の衣服は、汗でじっとりとしていた。
――くそ。またあの夢か。
マークは悩んでいた。けっして不眠症というわけではない。たびたびこの妙な夢を見るのだ。初めて見てから、3ヶ月くらい経つだろうか。彼にはこれが不快だった。
彼が落ち着いてから周りをみるが、辺りはまだ暗い。慣れた手でキャンドルを点け、壁の時計を見てみるとちょうど4時を指し示していた。
――朝勤めには最適の頃合いだな。
マークはベッドを降り、歯磨き、着替えと最低限の準備のみをした。
その教会の中は、多くの人が椅子に座り、最奥には豪華な祭壇が置かれていた。これがパースウェリア王国のルーイン教主要教会である。
朝勤めの歌が聞こえてくる。神を崇めるものなのだろう。パイプオルガンを伴奏に、聖堂の中心で歌っているのはひとりの男の声だ。
“嗚呼、天にまします我らがルーインよ
我らへ救いをもたらし給え
愚かな異人は教えを拒み、
哀れな背人(はいと)は災いに遭う
神の源義を説く我らこそ真理だ!
時代とともに移り変わった教えなど、所詮は偽りなり!
信じる道に神は降り、
純粋な人民に救済をもたらすのだ。
スナハト・ルーイン(ルーイン神万歳)!”
太く、迫力のあるバリトン声域が、周囲に響く。同じ場にいる参拝者たちも、歌声に続いていっせいに万歳の声をあげた。
讃歌が終わると、祭壇に登っていた大司教が聖堂に降りてきた。
「皆さん、おはようございます。では今日も始めましょう。35章を開いて、私に続けてください」
ここで話すことは、大抵ルーイン教典の原文である。彼はそれを、重みのある声で読み上げていき、教会にいる者たちはそれに従った。
ひとしきりすると、一般の参拝者たちは大司教にお布施を渡し、ぞろぞろと帰っていく。もう太陽は完全に昇っていた。マークが聖堂の柱時計をみるともう六時三十分だった。
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