第一章

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 教会関係者を除くすべての者が教会を出ていくと、マークは聖堂の隅に立て掛けていた身の丈ほどの木杖を手に取り、正面入口に出向いた。 「おはよう、ジェイミ。お疲れさん」  マークは入口を見張る若い用心棒に軽く挨拶をした。 「ああ、わざわざすみませんね、マークさん。ご迷惑をお掛けします」  ジェイミが過剰なくらいに激しく肩を狭めた。彼の腰には鉄の剣が差してある。  用心棒のジェイミ青年は南国の第四大陸出身なのだが、穏和な性格も相まって、同性異性を問わず人気が高い。 「まったく、お前は二枚目なんだから、もっと堂々としていたら良いのに。折角の体格も台無しだぞ」 「すみません。なにぶん出稼ぎの身ですので、あまり大きな顔は出来ないと思いまして。それに、肌も黒いし……」  マークはいつもの返事に呆れた。 「あのなあ、何度も言ってるけどルーイン教、もといパースウェリア王国の第一信条は『信じるものは皆平等』だ。お前は確かに移民だろうけど、みんなはお前がそのぶん熱心なことも知っている。先月やった、お前の成人の儀式は覚えてるだろ? あのとき、教会の誰もが心から祝っていたじゃないか。もっと自信をもってふるまってくれ」 「でも……」  青年の顔がどことなく歪んだ。唇を噛み、目頭には涙を溜めているようにも見える。 「ああもう、わかったから早く休んでくれ。疲れてるだろ」  マークが木杖で石畳をこつんと叩き、休養を促す。泣き顔の二枚目ははい、と気弱な返事をしてとぼとぼ教会へ入っていった。 ――こいつの駄目なところは、打たれ弱いところ、かな。  マークは冷静に分析した。彼には人を観察する癖がある。  人付き合いなんて面倒だな。彼は小さなため息をついた。 「ああ、退屈だ」  気弱な青年が休憩に入って十数分、マークはすっかり暇だった。  教会が盛んなのは、一日にたったの二回。朝勤めの早朝がピークで、日が沈む夕勤めの時間になるまで、ほとんど人は来ない。さらに教会自体が首都と言ってもほぼ街の辺境にあるため、通行人もいない。朝勤めから夕勤め前までは、用心棒はほぼ無用になるのだ。 ――でも、つまらない会話とかをするくらいなら、こっちのほうがよいけどな。
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