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「エヌ様が不思議がられるのも当然のことだと思います。この時計は文字盤の裏にセンサーが備え付けてあり、体内の脂肪分・糖分・塩分・老廃物等を読み取ります。それに血流の流れなどの心身状態から情報を総合して寿命を導き出すと言うことです」
エヌ氏はエスの説明で機械の仕組みは分かったがまだ信じていなかった。むしろいきなり押しかけてきて信じろというほうが酷な話だ。
「こんな小さな物でそんなことが出来るのは思えんがな……どれどれ」
そう言ってエヌ氏は時計を手に取り自分の手にはめようとする。すると血相を変えたエスがそれを阻止した。
「何をするんだ!少しくらいつけてもいいだろう!」
当然エヌ氏は腹を立てた。そんな大層な説明だけされて試着さえさせてもらえないのでは当然だろう。
「あぁ、すみません!どうかご無礼をお許し下さいませ。実はこの時計、一度つけると二度と外せなくなるのです。
そうなっては事ですので止めさせて頂きました」
「なるほど……そういうことなら早く――」
エヌ氏は若い新入社員からベテラン社員、商談相手まであらゆる人間を見てきた。
そのためエスの言動はエヌ氏の心にある確信を産んだ。
「(偽りの無いこの目・・・)」
「お前の言うこの寿命時計……どうやら本物のようだな」
「分かって貰えて光栄です。私どもの自信作でございます。人間歳を取ると、どうしても自分の余命を気にせずにはいられません。
もし残りの命が分かれば、これからの生活も変わると思いませんか?
だから私達はそこに目を付けました。皆様の人生を最高のものにして頂きたく、この時計を開発したわけです。どうでしょう……興味持って頂けましたか?」
「うむ 確かに便利な時計だ。やり残したことも出来るしな。よし、お前の熱意はよく伝わった!一ついただくとしよう」
「これはこれはありがとうございます。
しかし何せ精密な機械ですのでお値段が少々お高目に……」
「そんなことは百も承知だ。金なら腐るほどあるから心配の必要は無い」
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