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都心を少し離れた住宅街。この辺りは家が二軒繋がったくらい大きな住宅が建ち並んでいる。
一言で言えば多額の金を余らせた人達が住む所。
その中でも一際目立つ、エヌ氏の家にチャイムが鳴り響いた。エヌ氏は今年還暦を迎える。
しかし白髪が混ざった髪は、歳を感じさせない若々しさと威圧感を放っていた。
そんなエヌ氏は国内シェアトップのD社の代表取締り役――早いところ社長に君臨している。
その業界ではK社と鎬を削っているが、ここ何年も頂点に立ち続けている。
「何だ?こんな時間に来客なんて珍しいな……さてはセールスマンか何かだな」
エヌ氏はそう言いながらもドアへと足を運ぶ。
暇を持て余していたため、話を聞くだけ聞いて適当にあしらえばいいだろう、そう考えていたからだ。
「こんにちはエヌ様。私はエスと言い、ごく一般的なセールスマンでございます」
そこにいたのは立派なスーツで身を飾った、25歳くらいの細身の男だった。
「見れば分かる……で何の訪問販売だ?怪しい健康食品か?それともダイエット器具か?」
「いえいえ、そんなつまらない物ではありません。私がご紹介したいのは時計でございます」
「時計?それなら間に合っている。時計なら余るほど持っているからな。そういう事ならお引き取り願おうか」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。まずは見てください」
そう言ってエスは手に持った黒い鞄の中から一つの時計を取り出し、大理石で造られた玄関に置いた。
「何だこれは?本当に時計なのか?」
そこに置かれた時計は腕時計の文字盤の横に携帯のディスプレイを取り付けたような機械だった。
「時計は時計ですが、これは寿命時計です」
エヌ氏は数秒間キョトンとした後、エスに尋ねた。
「寿命時計???まさか、付けると寿命が分かる時計なんて言わないよな」
「そのまさかです 正確には残りの年・月・日を表示するものです。これが私の寿命です」
そう言ってエスが見せた左手首には同じ時計が装着してあり、画面には「YEAR48 MONTH7 DAY21」と表示されていた。
「つまり私は48年7ヶ月21日後に死ぬ……ということです」
エヌ氏はエスの淡々とした話についていけずにいた。
「理解出来んな……それにしても、何故そこまで正確に分かるのだ?」
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