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玲太は布団の中で固まった。すっかり忘れていたが今日は何日だろう。長期休暇の時に有りがちな、日付感覚の狂い。
布団越しに伝わる振動が徐々に大きくなる。
梨花の“始業式”という言葉は玲太の目を覚まさせるには十分すぎる呪文だったようだ。
眠気などとうに吹っ飛び、掛け布団が宙を舞う。勢いよく跳ね起きて、真っ先にカレンダーを見ると、自らが書いた赤文字で“始業式”の文字を発見する。
肌寒い気温には似合わない汗が、額からダラリと流れ出た。
「今何時?」
「八時五分」
梨花は既に中学校の制服に身を包み、お気に入りのゴムで結んだ自慢のポニーテールが、今日も可愛らしく揺れている。
未だに電車で子供用の切符を買えるほど幼い童顔で、思わず触りたくなるくらいにツルツルな餅肌。
俺の妹は相変わらず可愛いぜ!というシスコン思考をどこか遠くに投げ捨てて、玲太は焦る。
準備万端な妹に対して、兄である玲太は、まだだらしないパジャマ姿。
寝癖だらけの髪はボサボサで、朝食もまだ食べていない。
顔すら洗っていないのに、後五分で家を出なければ確実に遅刻するという絶望的な状況だ。
「やべぇぇえ!」
部屋に響き渡る男の断末魔。梨花は耳を塞いで、思わずため息を付く。
「だから起こしてるのに……お兄ちゃんのバカ」
梨花は呆れたように言い放つと、部屋を出て行ってしまった。
玲太は焦りながらパジャマを乱雑に脱ぎ捨てて、クリーニングに出したばかりの制服に着替える。
ここ最近はずっと昼まで寝ていることが多かった為、玲太の体はまだ完全に覚醒したとは言えないだろう。
だが、徐々に昨日の記憶が蘇ってきた。
テレビの前に山済みになるアニメのDVD達。
一話見たら次が気になる。だからつい見てしまう。そしたらアニメ製作会社の陰謀で、また良いところで終わる。一度ハマったら抜け出せない悪循環に陥り、玲太の睡眠時間は尽く削り取られる。
結果的に、次の日起きれなくて、学校の支度を大急ぎでしなくてはならない羽目になるのだ。
夜寝ない生活を繰り返し、春休み中見事に昼夜逆転してしまった。
でも、玲太は後悔していない。制服のボタンを留めながら、アニメのワンシーンを脳内リピートする。
「あのラストは何回見ても泣けたよな~」
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