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◇
「えー、春休みも終わり、皆さんの元気な顔を見られて――」
「眠い……」
始業式なんてどこの学校でも同じで暇なものだ。だらだらと長い校長の話を欠伸しながら聞き続けなければならない。
玲太は勿論、体育館にいる殆どの生徒が校長の話など聞いていなかった。
玲太は下を向き、目を閉じて仮眠体制に入る。
それを阻止するように、誰かが背中をチョンと突いてきた。
振り返るとそこには、ショートヘアーの似合う爽やかなスポーツ系男子の姿が。
「なんだよ……和人」
「なぁ……二年の女子で一番可愛いのって誰だと思う?」
“駒井和人 コマイ カズト”
玲太とは高一からの友達で、とにかく女子が大好きという、性欲の塊みたいな男だ。
その為、顔はいいのに女子にはあまりモテないという、なんとも惜しいスキルを持ち、産まれて一度も彼女が出来た事がないらしい。
女子が好きだから女子に嫌われるというのも、中々皮肉なものだ。
多分和人は退屈に耐えられなくなって、こんな話題を持ちかけてきたのだろう。
「お前、そんなんばっか考えてるから、女子からエロ井和人って呼ばれるんだよ」
「ちなみに俺は三井に一票な」
「聞いてないし……」
和人は玲太の忠告を軽々無視して、別クラスの四組にいる“三井一葉 ミツイ カズハ”を指差した。その姿は遠くから見ても一際浮いていて、他の女子が霞んで見えるくらいに可愛かった。
この学校に関して言えば、茶髪は別に禁止されていない。
三井の腰まで伸ばされた綺麗な髪も、うっすら茶色がかっていて、動くと同調してふわりと舞い踊る。
ぱっちり開かれた二重瞼に、筋の通った鼻。
なんといっても、可愛い笑顔が人当たりの良さを物語り、男心を揺さぶっていた。
「確かに可愛いかも……」
「そりゃそうだ。俺の目に狂いはない!」
「なに勝ち誇った顔してんだよ」
「んで、玲太は誰がタイプなんじゃ?」
和人が興味津々に顔を近づけて問い詰めてくる。
玲太は近い和人の顔を引き離し、視線をあちこちに泳がせた。
今時の女子高生の顔なんて、似たようなものだ。
そう考える玲太に、可愛い女子が誰かなんて分かるはずがない。玲太はあくまで、アニメ専門なのだ。
「俺は別に誰が可愛いとか――」
そう言いかけて、言葉が詰まる。
玲太の目が、体育館の入り口に立ち、なにやら先生から遅刻の説教を喰らっている女子の姿を捉えた。
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