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玲太だけではない。体育館にいる約半分近くの生徒の視線が、彼女に注がれる。
彼女の姿はこの広い体育館の中で、誰よりも浮いていた。遅刻して先生から注意を受けているから……というのもあるが、もっと他に、生徒が注目する大きい理由がある。
「金髪……」
誰かがはそう呟いた。
眩しくキラキラ光る金髪は腰まで伸ばされ、両サイドをリボンで結んでいる。
それが彼女に似合わないなら、高校デビューかと鼻で笑われるだけで、ここまで注目はされないかもしれない。でも、彼女の場合、その金髪ツインテが、非常に似合っていた。
鼻、口、耳、全てが綺麗に整っていて、スタイルは細身で胸は普通くらいだろうか。目は若干吊り目で、どこか不機嫌な印象を受けるけれど、彼女は確実に“美少女”と呼ばれる部類に入るだろう。
玲太は暫くその子から目を離せないでいた。
「釘付けだな~玲太君」
「な、何がだよ」
和人が、ニヤニヤと悪戯っぽく笑う。
「なるほど……玲太は“叶谷琴音 カノヤ コトネ”がタイプなのか」
「ち、違う!」
「アニメにしか興味ないと思ってたが、玲太も女子が大好きだったんだな。これから君は我が同士だ」
「お前と一緒にするな」
玲太は否定しつつも、横目でチラッと叶谷の方を見る。
叶谷の顔は、やっぱり不機嫌そうだった。
だが、叶谷の表情からは、不機嫌の他にも、もう一つマイナスな感情を読み取る事ができて、玲太は寧ろそちらの方が気になっていた。
(あいつ……なんであんな寂しそうな顔してるんだ?)
◇
始業式が終わると、生徒はそれぞれの教室で待機ということになっている。玲太は二年二組の教室に入ると、する事もなく、ただ睡魔に負けて机に頭を置いていた。
眠くてぼうっとした頭を横に倒し、微かに開く瞼の先で、見覚えのある金髪ツインテが、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。
「あいつ……同じクラスだったのか」
他のクラスメイトが既に、気の合う仲間を見つけて楽しくトークしている中、叶谷は一人ポツンと席に座っている。
誰かの席に向かったり、誰かが席にやってくることもない。
誰も相手にしてくれないことを、どこか不満に感じているように俯く彼女の姿は、まるで――。
「ま、初日は誰でもこんなもんだよな……」
勝手に結論付けて勝手に納得する。
玲太は欠伸をして、ゆっくり目を閉じた。
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