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「んじゃあ駅前のファミレス行こうぜ!」
「え~お好み焼きがいい……」
「うどん!そば!ラーメン!」
「ここは公平に多数決だろ」
眠れない。
閉ざされた瞼と一緒に重い頭を持ち上げて、睡眠を妨害してくる原因を探る。
すると、教卓の方でクラスの男女が集まり、やけに盛り上がっているのを見つけた。その輪の中から和人が出て来て、小走りで玲太の席に向かってくる。
「玲太ちゃ~ん!ちょっといいかしら?」
「なんだよ、気持ち悪い……」
「今日この後、クラスの奴らで昼飯行くんだけど、玲太も来いよ。親睦深めまくろうぜ!」
「誰が来るんだ?」
「あそこに集まってる奴全員」
和人はそう言い教卓の前に集まる集団を指差す。そこにはクラスの女子も何人か混じっていた。
「へぇ~女子も来るんだな」
「当たり前だ!何が嬉しくて男だけの汗臭い飯を食わねばならん!」
「酷い言いようだな……」
玲太は今日の予定を確認するために携帯を開いた。
アニメキャラ満載で、他人には絶対に見られたくない待ち受け画面に、メール二件受信の文字が出ている。
一通目の送信者は梨花からのようだ。
『今日のお昼ご飯は私が作るから、真っ直ぐ家に帰ってきてね!寄り道したら……オシオキダベ~!』
妹の料理とクラスメイトとの外食を天秤に掛けたとき、勝のは勿論外食だ。
この時はまだ誘いを断ろうなんて思っていなかった。クラスの仲間と親睦も深めたかったし、ここで断れば、付き合いの悪い奴だと思われかねないからだ。
玲太は行く気満々だった。
二通目のメールを開くまでは……。
玲太は携帯画面を見たまま時が止まったように固まる。
「玲太?」
和人が呼びかけた瞬間、玲太は顔の前で手を合わせて、頭を下げた。
「ごめん、妹が昼ご飯用意してるっぽいから、今日はパス!」
「お、おう。そうなのか?」
玲太は本当に申し訳ないといった感じで謝り、誘いを渋々断った。
妹の料理が食べたかったからではない。
受信ボックスに入っていた二通目のメールは、玲太がお世話になる、アニメ関係のコミュニティーサイトからだったのだ。
そのメールに記載された情報によると、今日は楽しみにしていたアニメDVDの発売日らしい。しかも、限定版を買うには、急いで店舗に向かわないと売り切れになってしまう。限定版DVDと外食を天秤に掛けた時、勝のは勿論限定版DVDの方。
人の価値観などそれぞれ違うのだ。
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