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「また今度誘ってくれ」
「おう、分かった。んじゃまた今度な!」
そう言うと、和人はまた盛り上がる教卓の方へ向かって行った。忙しい奴だ。
和人がいなくなり、何気なく頭を机に寝かせた。すると、目線の先に金髪ツインテと、二つの大きな瞳があった。
――目が合った。
頭がそう理解するより先に、叶谷の方からわざとらしく目を逸らしてくる。髪の隙間から控えめに姿を見せる彼女の耳が、少しだけ赤かった。
「……?」
玲太は頭上に疑問符を浮かべたが、あまり気に留めることもなく、机に突っ伏した。
もう周りの五月蠅さなんて気にならない。どうやら睡魔との戦いに負けてしまったようだ。
担任の先生が来るまで、しばしの仮眠をとる。先生が来れば、すぐに起きればいい。
そんな甘い考えを持っていたのだが、昨日の寝不足が祟った。
玲太は思ったより深い眠りについてしまったのだ。
この睡眠が後に、高校生活を一変させる原因になるとは夢にも思わず、玲太は幸せそうな顔をして居眠りを始めた。
◇
春休み明けの登校日は普通、午前中で終わるものだ。
始業式が終わると担任の先生が教室に来て必要書類を配る。
その時間に、自己紹介やら、先生の下らない世間話が付け加わったとしても、昼を過ぎて解散なんて事はまず無い。今現在、時計の短針は真上を向き、逆に長身は真下を向いている。
勿論、どこの教室を見ても残っている生徒は殆どいない。
HRが終わり、生徒達が解散してから既に、一時間以上経っているのだから当然だ。
もし残っているとしたら、それは相当話し込んでいる暇人集団か、部活が始まるまで教室で暇潰しをしている連中か、寝ているのに誰も起こしてくれなかった“玲太”のような奴くらいだ。
玲太の場合、起こしたが起きてはくれなかったので、結局放って行かれたという方が正しいのだが……。
とにかく玲太は、一時間前のお祭り騒ぎが嘘だったかのように静まる教室で、今も尚、爆睡していた。
そんな玲太に近寄る影が一つ。
それはあまり日に焼けていない真っ白な手で玲太の体を揺すりだした。
「ね、ねえ……いつまで寝てるの?」
「……」
玲太は相変わらず幸せそうな寝顔で熟睡している。
「起きてよ」
「後一時間……」
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