親父

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「いくらよりすじこだろ?」 俺が高校二年のとき、親父は家を出て行った。単身赴任と聞いていたが、そんなの嘘に決まっている。先日、朝のニュースで、ある会社が倒産したと報じているのをたまたま見た。それがたまたま親父の会社だった。親父も母さんもそんな大事なことなのに俺に隠していた。たまたま俺にだけ言わなかったのかもしれない。反抗期であったため隙間がなかったのかもしれない。兄貴にはちゃんと話していたのかもしれない。怒りでも悲しみでもない感情が芽生えた。そして、どうやら親父は自分が20年勤めていた会社が倒産したことより、すじこのほうが大事だったらしい。俺は何も答えなかった。 というより何も言えなかった。俺がこの会話にどんな返事をしたところで現状が変わるわけではないと分かっていたからだ。とにかく今のままではいけないと、変えなくてはいけないと必死だった。親父の発言で唯一変わったことと言えば、その日からすじこが嫌いになったことくらいだ。
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