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そのニュースから一週間もたたない内に親父は家から消えた。我が家は夫婦の喧嘩が絶えない家庭であったため、また喧嘩でもして「もういい、離婚だ。」とか言って出て行ったのだろうと考えていた。今までに何回もあったからだろう。親父はいつも別居するときは荷物が少ない。しかし家に帰ってくるときは出ていくときにはなかった謝罪の言葉と行きの五倍も六倍もある荷物をお土産にしてくる。
今回も荷物が少なかった。
確認のため母さんに「親父は?」と聞いてみると「長期の単身赴任よ。もう帰ってこないかもね。」と微笑みを浮かべた。一応納得はしたが、単身赴任にしては軽装な親父に不審を感じた。いつもならキャリーケース二個を両手で引っ張っているのに。だからといって母さんはこの件に関しては嘘をついたことが無いはずだ。見送りするか否かで容易にわかる。今回は見送りしなかったようだ。自分の勝手な解釈により矛盾が生じ、迷った。
思い起こせばおかしくなったのはあの日からだ。全部が嘘だと気付くには時間がかかった。いや、全部ではないか。確かにもう帰ってこなかったから。
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