榎本美楼季

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「いくら一枚。」 函ノ助の寿司はうまい。回転ずしとは思えないネタの大きさ、鮮度の良さ、それ以外にもすごいところはたくさんあるがとにかくうまい。もし一つ難を言うなら、値段が少々高いところだろうか。もう一つ言うなら、店員の愛想が悪いことだろうか。さらにもう一つ言うなら、俺に接客するときだけ適当であることだ。 「お客さん。今何か悪いこと考えてただろ?」 あとは、ここの店員が読唇術を使えることか。 「貴様、なぜわかった?」 「顔にでてるわ!」 大学生活も四年目に入りこの町にも親しみが生まれている。 「お待ち!」 目の前にいくらの軍艦が2つ置かれた。透明な赤色に輝く幾らかの粒が軍艦から溢れんばかりに乗っている。俺はそれをこぼさないように親指と中指に全神経を集中させ優しく持ち上げた。そのまま口に運び丁寧に噛み始めると目の前に広がるのはまさに函館!んんーうますぎる。俺が感極まってるとここの店員は塩梅悪そうにしていた。 「毎回その反応すんのやめてくんない?もう飽きたんだけど、そろそろ感情のレパートリー増やしたら?」 「うるさい!うまいものをうまいと言うことのどこに非があるというのだ!」 うまいという便利な言葉があるんだから、どこかの美食家達のように遠まわしな感想など告げなくてもいいはずだ。と思う。 「ミルキーは食べないのか?」 「ああ?私だって食べたいわよ!でも仕事中よ!」 「いいじゃんー他にお客さんいないし、ほら!」 そう言い、俺はもう1つのいくらちゃんをそいつの口に放りこんだ。無理に持ったせいか少し粒がこぼれた。 「うぐお!まめまはいよ!」 きっと彼女はやめなさいよと言いたかったのだろう。そういいつつ、いくらちゃんで頬張りもぐもぐという音が聞こえてくるようだ。 「ちゃんと食ってんじゃん。で、感想は?」 「うまいです」
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