6人が本棚に入れています
本棚に追加
ヨハネスの顔が朱に染まり、工房に怒声が轟く。工房入り口付近の作業台から赤錆たレンチがかっ飛ぶ。
「わしのグレンデルに何をしているこの馬鹿弟子がァ――!」
「あッぶねーな!? いきなりレンチ投げんじゃねーよ脳筋ジジイ!グレンに当たったらどうする!?」
豪速のレンチを辛うじて避けたトバルカインが叫ぶ。
ハッと第二投の体勢に移行しつつあったヨハネスは手を止めた。トバルカインは今すぐ抹殺したいが、納品前(よめいりまえ)の娘を傷付ける訳にはいかない。
「お、おお。そうだな……んでトバルカインてめえは何してる?」
ヨハネスは殺意を抑え、ニカッと笑顔を作った。怒りに震える手で工具を作業台に置く。
そんなヨハネスの心境などつゆ知らず、トバルカインは茶目っ気たっぷりに左目をウィンクさせた。
「何ってナンパだよ、ナ・ン・パ。お嬢さん、ちょっと遠乗りしませんか、ってな」
「師匠の娘を口説いてんじゃねぇこの馬鹿弟子がァ――!」
「どっちが馬鹿だハンマー投げんな馬鹿! 遠乗りくらい良いじゃねーか!」
最初のコメントを投稿しよう!