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麻貴がリビングに着くなり、声がかかる。
「おはよう、麻貴」
父のものだ。
目配せをしてその挨拶に対する返事のシンボルとし、麻貴は椅子に座る前からテーブルに用意されたトーストを手に取りかぶりつく。父もすぐに、手元の新聞に目を戻した。
変わり映えのない普通のトーストだが、おいしいと感じるのはなぜだろうか。
「父さん、テレビつけてくれない」
父に言葉を投げかけて、ようやく席に着く。不自然なまでに静かなこの食卓に音が訪れ、麻貴視線は音のする方へと向く。
朝の何の変哲もないニュース番組が、そこに流れている。徐々に覚醒してきた脳でその映像とテロップを解析・理解していくと、不意に映像が中継VTRに切り替わる。
閑静な住宅街が映し出され、女性リポーターがなにやら喋り始めた。
彼女の緊迫した様子から、なかなか大きな事件なのであろう。
一般的な、見解では。
麻貴にとっては、それはなかなか大きな事件なんてものでは片付けられない。
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