The wrong world

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 『犯人は住所不定無職、須藤 徹容疑者で動機についてはまだ判明していません。この血痕からお分かりいただけるように、犯人はこの付近で通り魔事件を起こしていました。警察巡回中に不審な男を見つけ、職務質問をしたところ、バッグから刃物が見つかり、自分がやったと話していたため、逮捕をしたということです』  トクン……と胸が高鳴るのがわかる。  これ以上は何も聞かないほうがいいと、体が、脳が、警鐘を鳴らす。  チャンネルを変えよう……と麻貴は言うつもりだった。  しかしそれを言わんとする前に、リポーターは無情にも話を続ける。  『なお、須藤容疑者につきましては、準備が整い次第「死刑法」が適用されることが決定付けられました。執行日は……』  「麻貴、どうした?」  柔らかい声と共にわれに返る。気がつくと、対面に座っている父がこちらを見ていた。  トーストを持つ手が震える。  汗と吐息が、おおよそ平常な人間が発するものとはかけ離れている人間に、注目をするなということが難しいのかもしれない。  あいまいに笑って、ごまかしてみる。  父はそれ以上、追及してこなかった。
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