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魔物は火柱を上げている。
「一人でこの森に入るなんて無茶が過ぎるぜ。」
きらびやかなローブに身を包んだ青年は呆れたように言った。
「君は街で見かけた吟遊詩人の…。」
「カグラだ。吟遊詩人だけどな、魔術の心得くらいはあるぜ。」
「魔術?この世界には魔術があるのか?」
「ああ、勇者は異世界から現れるんだったな。」
カグラは、頭を掻きながら困った様子で言う。
「この世界。まあ、あんたの世界にもあるかもしれないけど、マナと言う成分が空気に含まれている。これを一部いじって世界をちょっと変化させる。これがこの世界の魔術さ。消費したマナは自然に回復する事は無いが、魔物の中では合成されるからいくらか魔物を狩ってからじゃないと使えない場合も少なからずあるがな。」
「錬金術みたいだな。」
「んー、その錬金術?ってのがよくわからんが理解してくれたなら幸いだ。」
カグラは、干し肉をザッとかじる。
「その魔術ってのは誰でも使えるのか?」
「まあ、ちょっと素質はいるな。記憶力って奴がさ。」
カグラはちょっと笑って続ける。
「呪文が結構長ったらしくてな。それさえ覚えれば規模の違いこそあれ誰でも使える。まあ、俺みたいに少しばかり裏技を使う奴もいるけどな。」
そう言うとカグラはリュートを弾き始める。
「相棒の音色が、呪文のかわりになる。マナを不安定にし火力を上げるのにも一役かってくれる。こっちは少しばかり背中を押すだけでいい。」
「なるほど、カグラは見かけによらず知識人なんだね。」
「見かけによらずとは挨拶だな。まあ、この森を抜けるくらいまでは手伝ってもらうぜ。さっきのでこの辺のマナが大分減っちまったみたいだしな。」
カグラは干し肉の欠片をテイトに渡す。
「ほら、魔物さん達の登場だ。よろしく頼むぜ勇者さん。」
テイトはまだ使い慣れない重い剣を引きずりながら魔物に向かって行った。
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