scene1

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毎年真夏のうだるような暑さの深夜、私が働く会社でこうもりの姿を見る事ができた。 私は闇に紛れて飛ぶその姿に、魅了され興味を覚えた。 直線的で正確に、また機械的に、しかも数匹で決して羽音をたてる事なく、お互いに意志の疎通があるがごとく交互に、また仲良く、ほのかに光り車道を照らしだす街灯の下に集まり不規則に飛び交う、昆虫を餌にして食べている。 最初認めた時、何だか分からずにいた。 黒い影が目の前を 「スーッ」と、まるで鋭利な刃物で闇を上下に切り裂くように横切って行く。 車道は車が度々往来し、大型のトラックが次々と大きな排気音をたてながら、目の前にある会社に納品にやって来る。 そんな騒音などお構いなしで、餌を取っている。 まるで、 「自分達に危害を加える事がない」という、高等な知能が存在するように。 「あれは、何という種類のこうもりだろう?」 夢中になりその姿を追い求め、暫く経つといつの間にか姿は消えていた。 私は、煙草を吸いながら真夏のうだるような暑さの間を、 「退屈な仕事から一瞬でも逃れたい」との願望を、飛び交うこうもりのおかげでふとした瞬間でも、現実逃避の世界を見つけ出す事ができた。
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