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「――復讐、ですか?・・・生憎、僕はそんな人間ではないんですよ。正直、兄のことは好いていましたし、尊敬もしていました。けれど、やはり兄弟ですから周りから比べられることもありました。そんなとき、兄はいつも言いました。『俺はお前になりたかったよ』と。今となってはその言葉の本当の意味はわかりませんが、僕はそんな兄が嫌いだったんです。心のどこかで、僕以上に両親の寵愛をうけていた兄を憎んでいたんです。だから、兄が亡くなったとき、自然とほっとした気持ちになったんです。こんなことを言ったら兄のことを高く評価して下さった方には申し訳ないのですが、僕は兄がいなくなったことを少し喜んでいたんです。」
胸がざわついた。
僕が心の底から信じていた人の“弟”と名乗る男は、こんなにも無情なやつだったとは。
「君はそんな風に思っていたのか。生憎、僕には兄弟がいないからそういう感情はわからないんだが。」
「上橙園は代々正式な結婚をした者との間に生まれた子を跡取りとします。ですから今の当主様の孫である凛音様が必然的に後に上橙園を継ぐことになるのでしょう?。・・・まぁ、橘家は他にも沢山いますから、最終的には上橙園本家の筆頭執事になった者が後を継ぐのですが・・・」
「へぇ・・・・・・」
僕の知らないところで色々と家柄みの問題があると聞いていたが、跡継ぎ問題もその一つともいえるな。
でも、それなら・・・・・・
「いいのか?」
「・・・何がですか?」
彼は少し困った顔でまじまじと僕の顔を見てくる。
その水色の双眸が僕を貫いて離さない。
「いや・・・君は琥太郎君・・・あ、いやっじゃなくて、橘君がキライだったのだろう?それなら兄を追い越して橘家の当主を目標にしたりはしなかったのか?それに、君は僕とは面識がないはず。それならわざわざ僕に会いに来なくてもいいと思うのだが・・・」
「それは・・・」
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