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桜の花びらが美しく舞い踊る、二〇一一年、四月十五日。
僕の通う学園の入学式を終えて、約一週間がたった。
そろそろ新しいクラスにも馴染んで、小学校の頃からの付き合いの者や
新しく出来た友人たちと、僕は放課後に女子話(ガールズトーク)していた。
「・・・それでさ、凛音さんは好きな人とかいないの?」
「それ、私も気になってたんだよね~。」
「うっ・・・」
期待の眼差しを向けられ、言葉が詰まる。
すると、背後から耳に残るような甘ったるい猫の声が聞こえてきた。
「あれ?凛音ってこやちゃんのこと好きなんじゃないの?」
「っ・・・違うっ。」
「え~、中学入ったら付き合う約束じゃなかったっけ?」
「やめろ。もうその話は無かったことになってる。」
こやちゃん。僕が小学生のときに好きだった人。
本名は小柳良太。小学校では両思いだとクラス皆には言われていた。
それに、私たち自身も両思いだと思っていた。
だけど・・・
「いや、だってホントのことしか喋ってないじゃん。」
「だからやめろって!」
一瞬にしてその場が凍りついたのがわかった。
それは紛れもなく僕の怒声の所為だ。 さっきまで猫の声で喋っていた那波は「ほら、皆びっくりしてんじゃん。急に怒るから。」と言って机に突っ伏せていた体を起こした。
「・・・すまない。少し動揺してしまって。」
「ううん凛音さんが話したくないんだったらいいよ。」
「そうそう。こっちこそごめんね。話したくないことは誰にでもあるし。」
ね、と皆で顔を合わせていう友人に対して、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「驚かせて・・・ごめん。」
「いいって!ほら、あたしら友達でしょ?」
「松井さん・・・。」
“友達”。その言葉を聞いて、少し胸が温かくなるのを僕は感じた。
「やだなぁ、松井さん、なんて照れるじゃん!あたしのことは『まっちゃん』とか『とも』って呼んでよ。ね?」
「そ。皆そう呼んでるし。ちなみにうちは櫻井木葉。『この』って呼んでな☆」
「ありがと・・・僕も『凛音』って呼び捨てでいい・・・」
「うん。それじゃ、そろそろ下校時刻だし帰ろっか。」
「ほんまや。じゃあ校門で待っとくな。」
外に出ると、春の夕方にしては少し冷たい風が吹いてきた。
僕は長い髪を揺らして校門へ向かった。
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