第一章:赤

2/12
前へ
/12ページ
次へ
     1  桜の花びらが美しく舞い踊る、二〇一一年、四月十五日。  僕の通う学園の入学式を終えて、約一週間がたった。  そろそろ新しいクラスにも馴染んで、小学校の頃からの付き合いの者や 新しく出来た友人たちと、僕は放課後に女子話(ガールズトーク)していた。  「・・・それでさ、凛音さんは好きな人とかいないの?」  「それ、私も気になってたんだよね~。」  「うっ・・・」  期待の眼差しを向けられ、言葉が詰まる。  すると、背後から耳に残るような甘ったるい猫の声が聞こえてきた。  「あれ?凛音ってこやちゃんのこと好きなんじゃないの?」  「っ・・・違うっ。」  「え~、中学入ったら付き合う約束じゃなかったっけ?」  「やめろ。もうその話は無かったことになってる。」  こやちゃん。僕が小学生のときに好きだった人。  本名は小柳良太。小学校では両思いだとクラス皆には言われていた。  それに、私たち自身も両思いだと思っていた。  だけど・・・  「いや、だってホントのことしか喋ってないじゃん。」  「だからやめろって!」  一瞬にしてその場が凍りついたのがわかった。  それは紛れもなく僕の怒声の所為だ。 さっきまで猫の声で喋っていた那波は「ほら、皆びっくりしてんじゃん。急に怒るから。」と言って机に突っ伏せていた体を起こした。  「・・・すまない。少し動揺してしまって。」   「ううん凛音さんが話したくないんだったらいいよ。」  「そうそう。こっちこそごめんね。話したくないことは誰にでもあるし。」  ね、と皆で顔を合わせていう友人に対して、なんだか申し訳ない気持ちになった。  「驚かせて・・・ごめん。」  「いいって!ほら、あたしら友達でしょ?」  「松井さん・・・。」    “友達”。その言葉を聞いて、少し胸が温かくなるのを僕は感じた。  「やだなぁ、松井さん、なんて照れるじゃん!あたしのことは『まっちゃん』とか『とも』って呼んでよ。ね?」  「そ。皆そう呼んでるし。ちなみにうちは櫻井木葉。『この』って呼んでな☆」  「ありがと・・・僕も『凛音』って呼び捨てでいい・・・」  「うん。それじゃ、そろそろ下校時刻だし帰ろっか。」  「ほんまや。じゃあ校門で待っとくな。」    外に出ると、春の夕方にしては少し冷たい風が吹いてきた。  僕は長い髪を揺らして校門へ向かった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加