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―十分後。
静かに泣いていた彼、もう一人の橘君は、さっきから僕の方ばかり見ている。
僕を見つめる瞳は少し赤く充血していて、なんだか子供のようにも思える。
こうしてまじまじと見てみると、この橘君は兄の琥太郎君よりも少し幼くみえる。いや、単に琥太郎君が大人びていただけなのだろうか。
そんなことを考えながら僕は正座をして彼と向き合っている。彼が泣き止んでからどれくらいの時間が経っただろう。
正座している足は少しピリピリしてきた。本来なら、絵流と一緒に本家で書道、華道、茶道に励んでいるのだが、今は制服を着た状態で、フローリングの冷たい床に座っているため、足が痺れる。
すると、その様子を見ていた橘君は小さい声で言った。
「足・・・痺れているのなら崩していただいても構いませんよ。」
「いや、君が疲れているのであれば僕も崩す。」
「そうですか・・・では、私はお嬢様がソファに座るのであれば足を崩します。」
かなり強情なようだ。一度決めたら絶対に最後までやり遂げないと気がすまない性格にみえる。まぁ、つまり頑固。
僕は痺れた足を庇いながらそろそろとフローリングの上を移動する。
「橘君、足が痺れて立てない・・・立たせて?」
「っ・・・。お嬢様は可愛らしいですね。わかりました、では。」
「うわっ!?」
僕の体が先ほどのように浮く。正直、姫抱っこは恥ずかしいので止めて欲しい。
そして、恥ずかしがっていることを表に出さないよう、恐る恐る顔を覗き込むと、橘君は急に顔を真っ赤にして言った。
「兄が貴女を手放さなかった理由がわかりました。」
「?」
「いえ・・・兄は優秀な使用人として本家に仕える予定でしたが、あなたの存在を知って『どうしてもこの方にお仕えしたい』と本家の方に申し出たんですよ。」
「それが理由?」
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