夏休み

9/9
前へ
/9ページ
次へ
「大丈夫??」 心配そうななつの声が聞こえる。 「なつは、最初から、知ってた・・・?」 なつは少し悲しそうな顔で笑って、 「うん。知ってたよ。でも言うつもりはなかったけど。」 「何で!!」 涙が止まらない。 「何で・・・。俺、お前とやりたいことがもっとたくさんあった。 ずっと一緒にいられるって思ってたんだ。 なのに何でいなくなったんだよ!何で今頃思い出すんだよ・・・!」 泣きじゃくる俺の頭をなでながらなつは言った。 「ごめんね。どうしても、もう1度会いたかったの。 やすが私のこと覚えてなくても、会いたかったの。」 「俺だけ何も知らない。ずるい。何で俺だけいるんだよ!」 遠くから、バスの近づく音が聞こえる。なつはバスを見て、 「私はやすが助かって本当に嬉しかったよ。」 とふわりと笑った。 「もう、行かなきゃ。」 そう言ってバスのステップを上がる。 「待てよ!俺も行く!お前がいない世界なんて意味がないーー」 「それでも!」 追いかけようとした俺の言葉をさえぎってなつが言う。 「それでも、私がいなくても、意味がなくても、それでも・・・幸せになってね。」 「・・・っ!」 「私、やすの事、大好きだったよ。」 そう言った彼女の泣きそうな笑顔を見てしまうと何もいえなくて、追いかける事もできず、ただ、泣くしかなかった。 「こら、泣いたら男前が台無しだよ。」 そう言ってなつが笑うから、俺は顔を上げて 「なつ、ありがとう。好きだよ。さようなら。」 笑って言った。笑えていただろうか?でもなつは嬉しそうに、綺麗に笑って、 「ありがとう。・・・さようなら。」 そう言って、バスに乗り込んだ。ドアが閉まる。バスが動き出す。 この時、俺の止まっていた時間が動く音がした。 夏休みは1年に1度。 16歳のこの夏休みは一生に一度。 少しずつ、夏休みが来るたびに、少しずつ、確実に、成長しているのだろう。 止まっている事などできないから、来年は君の墓参りにでも行けるだろうか。と思いつつ、 俺の16歳の夏休みは終わった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加