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なつのメモを全て終わらせるころにはもう夜に近い時間になっていて、適当に道を歩いているとなつが言った。
「私このバス停からバスに乗って帰るね。」
「え?帰るのか??」
何だかとても寂しくて、行かせてはいけないような気がした。
なつとは今日はじめて会ったはずなのに、ずっと一緒にいたような感じがする。
離れたくないと、そう思った。
もう少し、あと少しだけ一緒に居てくれないかと言葉を探していると、
「あら、やす君。こんなところに1人でどうしたの?」
「あ、こんばんは・・・」
隣に住むおばさんに声をかけられた。なんとなく女の子とふたりでいる事が恥ずかしかったこともあり、
「えと、なつとは今偶然会っただけでーー」
言い訳を口にしたとたん、おばさんの表情が変わった。
「何を・・・言っているの??」
「え?」
「なっちゃんは4年も前に亡くなったでしょう。お葬式にも参加して・・・。やす君、どうしたの?大丈夫??」
おばさんの哀しそうな顔と、無理をして思い出さなくてもいいと言う大人の顔が重なる。
思い出してしまった。
4年前、小学6年生の夏休み。新しいクレープ屋さんと鉄棒の練習。来年こそは海に行こうって、メモを書いたのよと楽しそうに笑う彼女。
帰り道、横断歩道。迫る車。赤、紅、あか。
「ーーーっ!」
忘れていた記憶。どうして忘れていた?大切な、大切な記憶だったのに。
そうだ、俺となつは事故にあった。そして、俺だけ、生き残った。
「大丈夫??」
おばさんが心配そうに聞いてくれているがそれどころではなくて、一人にして下さい、とだけ言った。
おばさんは心配そうではあったが「気をつけてね。」と言うと、
なつを、すり抜けて、行った。
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