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「あなたはこの近辺に居ついているといいましたよね。それなら事故で亡くなった女の子を見ていませんか。もちろん幽霊としてです」
「ワシもずっとこの場所にいるというわけじゃないからのぅ。残念ながら見ておらぬわ。ワシは待ち人の地縛霊じゃ。もしあんたの探しておる娘さんが現れた、伝えておこう。あなたを探している少年がいる、と」
「お願いします」
もう一度頭を下げる。幽霊に頼みごとをして頭を下げるなど、滑稽極まりない。
老人を見ることのできない大半の人たちが今の僕を見たらどう思うだろう。空気に頭を下げている、頭のおかしな男だと思われてしまうだろうか。
「あなたは一体誰を待っているのですか」
頭を起こしてから老人に尋ねた。
おそらく、そのものが現れたら老人は成仏するのだろう。待つという思いが、彼を現世に留まらせているに違いない。
「カルボナーラじゃ」
「はあ? カルボナーラ」
そう聞いて、パスタを真っ先に思い浮かべた僕はどうも納得いかなかった。
待ち人ではなく、それは食に対する思いではないのか。死ぬ前にカルボナーラを食べてみたかった、なんていう無念の食欲が強い思いになっているのではないだろうかと。
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