プロローグ

2/47
前へ
/93ページ
次へ
「はあ……」 箒を手にしながら、俺は今日だけでいくつため息を吐いたのだろう、なんてどうでもいいことを考えていた。 空はすでに茜色を失い、窓を叩きつける風に勢いが増してきている。 おんぼろな校舎からは、掃く度に新しいごみが舞い散り、いつまでたっても掃除なんて終わる気配がしなかった。 何でこんなことをしてるんだ、俺は……。 いや、理由は分かりきっているか。 「はいはーい。腕を休めないで下さいね。奴隷さんな貴方には、そんな権利はございませんよー」 「……分かってるよ」 教室前に立っている一見清楚な女の子が、こちらに対し冷酷とも言える台詞を投げつけてくる。 そう。『奴隷さん』 それが、今の俺を表す言葉だった。 「本当に分かっていますか? それが終わったら次は皆さんの下駄箱を、それから窓も綺麗にしてもらわないといけませんからね?」 手を叩きながら『ご主人様』は思いやりもなにもなく告げる。 抵抗をしないわけではない、相手が普通の同級生の女の子ならば、力で負けるわけはないから。 だが、この娘が、俺を奴隷呼ばわりする娘が普通の女の子の筈はなく……。 「はあ……」 そしてまた、自分を押し殺すためにごみを掃いた。 ……自分で決めたことだろう。ため息なんてするんじゃない。 こうやって言い聞かせるのも、何度目になるのか。 「………………」 俺は、呑気にどこまでも続く空を、恨めしく見上げた。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加