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「はあ……」
箒を手にしながら、俺は今日だけでいくつため息を吐いたのだろう、なんてどうでもいいことを考えていた。
空はすでに茜色を失い、窓を叩きつける風に勢いが増してきている。
おんぼろな校舎からは、掃く度に新しいごみが舞い散り、いつまでたっても掃除なんて終わる気配がしなかった。
何でこんなことをしてるんだ、俺は……。
いや、理由は分かりきっているか。
「はいはーい。腕を休めないで下さいね。奴隷さんな貴方には、そんな権利はございませんよー」
「……分かってるよ」
教室前に立っている一見清楚な女の子が、こちらに対し冷酷とも言える台詞を投げつけてくる。
そう。『奴隷さん』
それが、今の俺を表す言葉だった。
「本当に分かっていますか? それが終わったら次は皆さんの下駄箱を、それから窓も綺麗にしてもらわないといけませんからね?」
手を叩きながら『ご主人様』は思いやりもなにもなく告げる。
抵抗をしないわけではない、相手が普通の同級生の女の子ならば、力で負けるわけはないから。
だが、この娘が、俺を奴隷呼ばわりする娘が普通の女の子の筈はなく……。
「はあ……」
そしてまた、自分を押し殺すためにごみを掃いた。
……自分で決めたことだろう。ため息なんてするんじゃない。
こうやって言い聞かせるのも、何度目になるのか。
「………………」
俺は、呑気にどこまでも続く空を、恨めしく見上げた。
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