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少々角が曲がっている黒板に向けて、文字を書き出す。
「……ほう」
それを見た緒方先生が感嘆の声をもらしたのが、俺の耳には届いていた。
自慢になるが、自分はなかなか達筆な方だと思っている。
習字とかを習っていたわけではないけど……。
そのため、こういった自己紹介の方法は、少し得意だったりするのだ。
「渡部 永(ワタベヒサシ)です。出来れば名前で呼んでください。よろしくお願いします」
淡白すぎるかもしれないかったが、俺はそれで頭を下げた。
なんであれ今日はまだ初日。
言いたいことが他になかったわけではない、が、無難に終わるのが一番である。
しかし、そんな思考は、緒方先生の発言によってかきけされた。
「ふむ、少々芸がないな」
「え?」
そう言って緒方先生は、窓際にひとつ置いてあった椅子に腰かける。
そして足を組んで、1人の生徒を指差した。
……指差すなよ。
「縁くん。相川 縁(アイカワユカリ)くん」
窓際の一番前の席、おそらくは出席番号の最も早いと思われる少女。
いや、少女と言うよりは、女性という表現が正しいか。
何にせよ、その指名された人物は、机に伏せて眠り耽っていた。
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