プロローグ

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『あの空に広がる 大きな太陽 この風で全部覆うみたいに』 「あ……っ!」 思わず声をあげてしまった。 いつ接続したのか、彼女の出す声は全てマイクに吸い込まれ、スピーカーから流れ出す。 それは当然、CDプレイヤーから流れ出る曲を歌っているわけだが。 『分からないことも いっぱいあるけど でもそれでもいいんじゃない?』 聞いたことがあって当然だ。 よくCMで流れているじゃないか。 『さあ 暗い気持ちなんて 全部捨てちゃおう!』 「ふふ、その様子だと彼女を知っていたようだね」 何故か緒方先生が、勝ち誇ったような声で聞いてきた。 「あ……。はい、相川 みどりさん、ですよね」 「そうだよ。絶賛ブレイク中の歌手、相川 みどりくんだ」 そう、確かそんな名前だ。 歌う姿は初めて見るが、軽快なステップを常に踏んでいるところから、本当に歌が好きなんだということが伺える。 それだけではなく表情も、今さっきまで眠りふけっていた人物とは思えないほど生き生きとしていた。 『この大地を駆けるために 君の足はついているんだから』 歌詞が、Bメロを終える。 今からサビに入ると言うところで、縁さんは左手で握っていたマイクを右手に持ち変えた。 そして、表情も更に輝いたものに変わる。
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