ーー シンデレラ.

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「何処に」 「近くだ。時間は取らねぇから」 奴から誘って来たし、何より仲直りするチャンスだと思った私は承諾した。 「じゃあちょっと待ってろ、鞄持ってくっから」 「分かった」 この時、私がその誘いを断っていれば今も私達は普通の生活をしていたはず。 ーーーーーーーーーー 淳也に連れてこられたのは、昔良く遊んだ公園。 「何で、こんな所に……?」 隣に立つ淳也を見上げるが、夕陽に照らされて表情が見えない。 そのまま私の方を向き。 「これ、覚えてるか?」 差し出したのはオルゴールくらいの古びた木箱。 木の表面には何処かの国の文字がぎっしり刻み込まれている。 「……覚えてない」 「そうか」 そう言うと両手で木箱を撫ではじめた。 大事な物を触れるように。 「何なの?中身」 「気になるか?」 逆光でも分かる程淳也の口が深く切り込まれた。 思わず身の毛がよだったのを覚えている。 「気になるなら、自分で開けてみろよ」 胸に突き当てられるが、どうにも受け取る気にはなれない。 「いや、良いよ……」 「開けろよ」 退くごとに淳也が距離を詰める。 「開けろ、早く」 数歩逃げた所で淳也を見ると、気が狂った人間のようだった。 目を剥き、涎の垂れる切り込んだ口。 「ひっ!?」 もう淳也とはは呼べない生き物だった。 「開けろ、箱を!開けろ、早く!」 「やっ……」 「開けろっ!!」 「いやぁっ!!」 そいつの手を振り払った瞬間、木箱が弾かれ地に転がった。 蓋は半分程開かれて。 「あっ」 それを確認したと同時に何かに吸い込まれる感覚が、足元から這い上がってくる。 通行人は私に気付かぬ様子で、見ているのは狂ったアイツだけ。 吐き気に襲われて私は意識を手放した。 .
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