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「何馬鹿な事言って……」
「本当なんだよ」
そう言って淳也は本を数ページめくってこちらへよこした。
開かれたページには左にも右にも文字がびっしりと書かれていた。
読もうにも走り書きのように字体が崩れていて読みにくい。
「何て?」
文字を指でなぞりながらたずねる。
すると奴も同じように文字をなぞりながら話はじめた。
「『小さな集いの場にて引き寄せられし男女の人の子、馴れ合いの果てに隔たりが生じる。』」
「何かの物語?」
「あぁ、俺たちの物語だ」
「また意味のわからない事を……」
「小さな集いの場って言うのは、俺たちが初めて会った公園の事だ。男女の人の子は俺とお前。隔たりとは小4あたりから話さなくなった事だろう」
そう言われれば私たちの物語だと思えなくもない。
けれど勝手な解釈ともあり得る。
眉を寄せた私に対して淳也は溜め息をつき、再び本へ目を向けた。
「『とある日に思い出の地へ共に足を踏み入れる。だが時すでに遅し、男の体、鍵の呪いに蝕まれたる。』」
「これは何だって言うの?」
「今日、俺がお前を連れて公園に行っただろ。それが思い出の地だ」
「じゃあ淳也が乗っ取られてたって言うのは……」
「鍵の呪いに蝕まれてたってとこだ」
「ふぅん」
たしかに私たちの今までの出来事と似ている。
だけどそれは"似ている"だけであってやっぱり納得できない。
「信じてねぇだろ」
「そりゃ、まぁね」
「なら、信じざる終えなくさせてやるよ」
更にもう1ページめくる。
「『禁忌を犯した人の子、夢の世界にて幸に閉じ込められる。新たな騎士と称え血海の世界へ立ち入る。』」
そこでパタンと本を閉じてしまった。
「終わりなの?」
「あとは白紙だった」
本棚へそれを戻し鍵を木箱へしまった。
そしてまた私の隣に座り込むと。
「すぐにさっきの文の意味がわかるはずだ」
「へぇ……」
話が途絶えしんとなるとパチパチと音が聞こえた。
今まで気が付かなかったが部屋の奥に暖炉があった。
中では不規則に炎が揺らめいている。
そういえばここはどこなのだろう。
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