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出て行ったのはこれを用意するためだったのか。
「ありがとう、フェンリル。お配りして差し上げて」
「了解した」
鮮やかな赤茶色の紅茶をカップに注ぎ私と淳也の前に置かれる。
鼻先を甘い香りがかすめた。
香りを嗅いでいるとフェンリルが近寄ってきた。
「アップルティーだ。シュガーは入れるか?少なめの方が香りがたつが」
「じゃあ……少なめで」
手にしていたシュガーポットから少量スプーンで掬い取り、湯気のたつ紅茶へ流し入れる。
それをゆっくりとかき混ぜながら。
「女が鼻をひくつかせながら匂いを嗅ぐのは、あまり誉められた事じゃないぞ」
「なっ!?」
「出来た、火傷に気を付けろ」
スプーンを紅茶から出して、もう淳也の紅茶へシュガーを入れている。
「失礼じゃないですか!」
人の話なんてまるで聞いていないようだ。
初対面なのに、なんて人だ。
シュガーを入れ終わると、こちらを横目で見てからまたファラのもとへと戻っていった。
「……それでは、お紅茶でも飲みながらゆっくりお話いたしましょう」
「ファラ、例の書物もついでに持ってきておいた」
「あら、ありがとう」
ファラに手渡されたのは赤色の本。
あの部屋で私たちが見たものとそっくりだ。
淳也を見ると奴もまた同じように思っているらしく、こちらを向いて小さく頷いた。
「ブックキーパーというのは、童話や昔話の中のいわば警察のような役割ですわ。お話の中でも様々な事件が起こりますの、それを解決してシナリオを狂わせないように制御するのが我々、ブックキーパーのお仕事ですわ」
「えっ、じゃあ作家さんなんですか?お話を書き換えたりしてるってことですか?」
「いいえ、そうではありませんわ。そうですわね……説明が難しいですわ」
「説明するより見た方が早いんじゃないのか」
「あぁ!そうですわね!さすがフェンリル、いい案ですわっ」
「では、ゲートを開く」
手袋を外したフェンリルの手のひらには、青色の文字がびっしり書かれていた。
その文字が輝き、何やら煙が出てきた。
「何だあれ……」
「魔法みたい……」
煙は渦を巻いてフェンリルの前に大きな円を作り出した。
渦の速度があがり煙がいっきに晴れた中に現れたのは、半透明な青いループ。
直径二メートルはあるだろうか。
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