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「う"ぇっ……!」
「大丈夫かっ!?」
思わずしゃがみ込んだ私の背中を淳也が優しく擦ってくれた。
それでも嗚咽とそれからくる涙が止まらなかった。
背後で足音がした。
「きゃっ、嫌だ!フェンリル、何でこんな所へゲートを開いたの!」
「こちらの世界を知るには一番いい場所だと思ったからだ」
どうやらフェンリルとファラらしい。
すっっと淳也の手が離れた。
「どういう事だよ、これは……」
「見たままだ」
フェンリルは当たり前というように両の手を広げた。
その表情にはうっすら笑みすら伺える。
「前を見てみろ」
言われるがまま前を見ると一人の女が立っていた。
女は白いドレスと輝くティアラを身に付けており、髪は美しいクリーム色でその顔も綺麗だ。
女と背景に見える白と青の城。
見覚えがある。
「シンデレラ……」
「ご名答。ここはシンデレラの物語の国だ」
でもシンデレラはこんな血生臭いお話ではなかった。
王子様と結婚してハッピーエンドのはずだ。
「結香さん?私言いましたわよね。物語の中で事件が起こる、と」
振り返るとファラの右手には重々しい銃が握られていた。
淳也も私も目を見開いて固まってしまった。
「そして……」
弾を装填するガチャリという鈍い音が耳に届く。
「シナリオが狂わないように制御するのが私たちのお仕事だ、とも」
タァーンっと銃声が響く。
間近で聞いたせいか耳鳴りもする。
ファラが撃ったのは。
「うそ……」
先程の美しい女だった。
胸元に赤い染みができている。
そしてその染みのできた部分を押さえて倒れてしまった。
「人殺し……」
「あらあら、聞こえが悪いですわねぇ。フェンリル、絵本を見せて差し上げて」
「了解した」
フェンリルは私たちに寄ってきて携えていた青色の本を開いた。
「読んでみろ」
開かれたページをみると右に挿絵が描かれていた。
その挿絵はまるで今の現状をスケッチしたようだった。
多くの人が森で倒れて血を流し、白いドレスを着た女が城をバックに倒れている。
そして手前には銃を持った女、ファラが描かれていた。
右の文へ目を向けると、またもや走り書きのような文字で文が書かれていた。
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